最近話題?というより、2016年に家電メーカーが話題にしたい「HDR」。HDRとは「High Dynamic Range(ハイダイナミックレンジ)」の頭文字を取ったキーワードです。HDRとは何か?から、4KテレビのHDR/4K最新動向や現在進められているHDRの国際標準化について紹介していきます。
HDRとは何か?
昨年ドイツで開催されたIFA2015から話題になり、CES2016にて出展されているテレビは4Kが当たり前となっており、次なる高画質化の技術としてHDRが話題の中心となっていました。
HDRでは従来の映像で表現出来なかった明るさ情報(輝度)のレンジ(幅)を拡大する技術です。映像では明るさ情報をnit(ニット)という単位でレンジを表します。
すでにiPhoneなどのカメラ(写真)には「HDR」という機能が搭載されています。しかし、カメラに搭載されているHDRとは「明るい画像」「正常な画像」「暗い画像」これらを合成することによって、暗いところから明るいところまでを表現可能とする合成技術。
一方、4Kテレビ等で話題になっているHDRは合成ではなく、撮影するビデオカメラやテレビ等のディスプレイ性能向上したことによって可能となっている技術です。
では、従来とは何か?を含めて表にまとめてみました。
次世代規格(BT.2020)にて表示可能な輝度(nit)が100倍に!
レンジ(nit) | 参考 | |
---|---|---|
BT.709 | 0~100nit | 地デジ、BSデジタル フルハイビジョン |
BT.2020 | 0~10,000nit | 4K(UHDTV1) 8K(UHDTV2) |
人間の目 (参考) | 0~20,000nit以上 |
HDRの説明時に出てくる「従来の映像」というのは、国際標準規格である「BT.709」のことを指しています。BT.709という規格は一般的ではないよう聞こえますが、現在のフルHD(フルハイビジョン)を定義している規格です。
このBT.709という規格で表示可能な明るさのレンジが定義されました。その範囲が0-100nitという幅です。このnit(輝度)レンジは当時の最新モニタで表現可能な値を参考に規格化が行われました。
当時としては十分なレンジ(幅)でしたが、撮影するカメラやテレビの性能向上により、従来のBT.709で定義されたレンジ(0-100nit)では表現出来ない明るい映像の撮影や表示が可能となってきたため、次世代映像規格であるBT.2020では明るさのレンジが、従来と100倍となる10,000nitと大幅に拡大されました。
人間の目は次世代規格よりもさらに倍広い0-20,000nitまで認識可能なようです。HDRの登場によって「人間(人)の目で見た映像に近い表現が可能になった」という言葉も最近聞くようになりましたが、実際の人間の目は遥かに高性能なようです。
表示可能なnitが101以上ならHDR対応?
では何nit表示可能であればHDR対応なのか?4Kテレビ等がHDR対応するには様々な伝送方式(HLG方式とPQ方式)があり、まずはその伝送方式に対応していることが前提なのですが、nit(輝度)数については明確な規格はありません。
極端な話でいうと、HDR表示か可能な伝送方式に対応し、表示する映像の最大nit数が101nit以上であればHDR対応ということになってしまいます。そこで登場したのがCES2016にて発表された「Ultra HD Premium」という認定ロゴです。
この認定ロゴは、UHD Allianceという団体が4K/HDR映像の品質維持のため、最低限の技術仕様に関する基準を策定し、その基準を満たした機器や配信サービスに対して認定ロゴを付与するものとなっています。
ちなみに2015年に発売されているHDR対応4Kテレビの最大nit数は大よそ500nit前後のようです。
「Ultra HD Premium」認定おける4K/HDR基準
「Ultra HD Premium」では表示ディスプレイによって、異なるHDRにおけるnit数の基準が定められています。これは各ディスプレイの特性を考慮した基準となっています。液晶タイプでは最低で1,000nit以上の表示が基準となっています。
- 液晶:ピーク輝度1,000nit以上かつ黒レベルが0.05nit以下
- OLED/有機EL:ピーク輝度540nit以上かつ黒レベルが0.0005nit以下
CES2016では「Ultra HD Premium」に対応した4KテレビがパナソニックとLGから発表されました。パナソニックが発表したのは、液晶タイプの65型4Kテレビ「TX-65DX900」です。一方LGが発表したのは、OLED/有機ELタイプの「G6/E6シリーズ」がUltra HD Premium対応となっています。パナソニックが発表した「TX-65DX900」は、欧州向けモデルとなっているため、今のところ国内で発売予定はないようです。しかし、同モデルをベースとしたVIERAシリーズにおけるフラグシップモデルの発売予定されています。
2016年はコンテンツ・サービスとも続々とHDR対応に!
4K/HDR対応については、対応テレビである製品ばかりに注目が集まりがちですが、対応するコンテンツがないと、せっかくの4K/HDR対応テレビも意味がありません。昨年の2015年時点では、ほとんどHDR対応コンテンツはありませんでした。
しかし、今年は続々と対応コンテンツが登場してきそうです。国内で最も早く対応するのがぷららのVODサービス「ひかりTV 4K」です。同社は4Kテレビだけでなく、モバイル向けの4K配信においてもHDR対応するようです。
また、今年はNetflixやYouTubeがHDR対応すると発表しており、一気に対応コンテンツが拡充しそうです。正式発表はまだですが、Amazonプライムビデオやスカパー!4KもHDR対応に向けて準備しているようです。
2016年の4KテレビはHDRが標準対応となる?

パナソニックが1/27に先陣を切って、4Kテレビの2016年モデルを行いました。発表されたのは、2015年モデルCX700の後継機でエントリーシリーズの「DX750」と、スタンダード(入門)クラスの「DX600」の2シリーズ。
2015年モデルのエントリーシリーズ「CX700」には、HDRに対応していませんでしたが、2016年モデルである「DX750」ではHDR対応となりました。
ここで気になるのが、今後の他のメーカー2016年モデルの動向です。例年通りであれば、夏のボーナス商戦までに各メーカーから2016年モデルが発表されるでしょう。ソニー、東芝、シャープは4月下旬から5月にかけて発表するのではないかと想定されます。
ソニーについてはCES2016に出展した新BRAVIA「X93D」「X940D」「X850D」の国内モデルが発表されるでしょう。HDR対応を大々的にアピールしていたため、全モデルHDR対応となるはずです。機能から見ると、「X850D」がスタンダードシリーズのようです。
機能名 | X940Dシリーズ | X93Dシリーズ | X850Dシリーズ |
---|---|---|---|
4K/HDR対応 | ○ | ○ | ○ |
AndroidTV | ○ | ○ | ○ |
Slim Backlight Drive | × | ○ | × |
Full Array LED Backlight | ○ | × | × |
X-tended Dynamic Range PRO | ○ | ○ | × |
TRILUMINOS™ディスプレイ | ○ | ○ | ○ |
4K X-Reality PRO | ○ | ○ | ○ |
4KプロセッサX1 | ○ | ○ | ○ |
今回のCES2016には東芝とシャープは出展していなかったため、2016年モデルの内容については不明ですが、パナソニック・ソニーの動向を見ると、エントリーシリーズはどのメーカーもHDR対応となってきそうです。
2015年は4K普及元年でしたが、2016年はHDR普及元年の年となりそうです。
HDRの進化はまだこれから
2016年モデルから徐々に搭載が始まるであろう「HDR」ですが、完成といえる4Kテレビはしばらくはなく、BT.2020にて規格化されている最大10,000nitに向けてHDR技術の進化は続きそうです。
REGZA(レグザ)の試作機はなんと脅威の7,000nitを実現!
昨年の9月に報道陣向けに「レグザ先行技術説明会」が開催されました。この説明会の中で紹介されたのが、「7,000nit HDRパワーディスプレイシステム」と命名されたリファレンス用モデル。なんと7,000nitという驚異的な明るさを実現しています。

画面左側が現行のHDR対応モデル。500nitを表示する性能があり、十分明るいはずなのですが、7,000nitのディスプレイと比較すると随分と暗く見えてしまいます。

7,000nitを実現するには、18,000個のLEDと2,000Wの電力が必要とのこと。LEDは比較的に熱の発生は少ないですが、18,000個のLEDが高密度に配置されており、それらを冷却するために空冷/水冷の冷却システムが搭載されています。
当然、7,000nitのシステムが搭載された4Kテレビを市販化するには、冷却や消費電力の課題を解決する必要があるたため、まだまだ先の話になりです。
ソニーはCESにて4,000nitを実現する「Backlight Master Drive」を発表
ソニーはCES2016にて次世代技術として「Backlight Master Drive」というバックライトシステムを発表しています。このシステムでは4,000nitの表示が可能とのこと。CES2016でのソニー発表内容はHDR押しとなっていたので今後の進化に期待大です。
CES2016の会場には、「Backlight Master Drive」を搭載した85型の試作機が展示されました。直下型LEDを高密度実装することで超多分割エリア駆動を実現し、ソニー独自の映像エンジンである「X-tended Dynamic Range PRO」と組み合わることによって、ダイナミックレンジを拡大し、映像の立体感や奥行き感がある映像が実現可能とされています。
2016年モデルの4K/HDR対応テレビは、「Ultra HD Premium」認定ロゴ取得に必要な1,000nitがフラグシップモデルの一つの基準となりそうです。しかし、1,000nitは4K/HDR対応テレビの完成系といえる値ではないため、今後はしばらくHDR開発競争が続きそうです。
現時点でのカメラ技術から見ると撮影方法や機材にもよりますが、「HDR対応にて撮影」とアピールしているコンテンツは最大3,000~4,000nit前後で撮影されています。そのため、4,000nitぐらいまでは4Kテレビの進化が続くのではないかと想定しています。
HDRの国際標準規格が策定中
HDRは現在、複数の方式が存在しますが、国際標準化がされていません。そのため、国際標準規格の策定が行われています。しかし、内容としては、提案されている方式が併記する内容となっています。勧告としてはITU-R BT.HDR-TV(仮)となっています。
標準化に向けた提案検討WGが12/18にNHK技術研究所にて開催されました。以下の際の資料となります。
標準化の概要


次世代放送(4K/8K)におけるHDRは、イギリスの国営放送BBCとNHKが中心になって開発した「Hybrid Log-Gamma(HLG方式)」と、Ultra HD Blu-rayにも採用されている「Perceptual Quantizer(PQ方式)」の2方式がHDRの標準化規格として提案されています。
後者のPQ方式については収録方式の違いにより「HDR10」「Dolby Vision」「Philips方式」が存在します。
両規格の大きな違いは、HDR対応映像の規定の仕方です。Hybrid Log-Gamma(HLG方式)では、カメラ(放送局)側で規定するため、HDR対応テレビとHDR非対応(SDR)テレビ向けに対して1ソースで対応が可能です。カメラ側で規定するため、ライブ等の生放送にも対応です。
PQ方式はディスプレイ側で規定するため、HDR対応テレビと非対応(SDR)テレビへの出し分けが必要であるためVODサービスに適した規格となっています。PQ方式の方が不利?に見えてしまいますが、表示可能なピークnit数が異なります。Hybrid Log-Gamma(HLG方式)は最大約1,000nit、Perceptual Quantizer(PQ方式)は10,000nitまで対応可能です。
最適な内容が異なり、ピークnit数も異なることから2方式を併記した内容にて国際標準化に向けて協議されています。2015年7月にHLG方式と「Dolby Vision(PQ方式)」「Philips方式(PQ方式)」の3方式併記が標準規格としてITUに認められなかったため、検討が継続されています。
4K/8K試験放送におけるHDRは国際標準化に準拠
昨年の12/25に総務省で開催された「4K・8Kロードマップに関するフォローアップ会合(連絡会)」では、2016年よりBSデジタルで開始される4K/8K試験放送におけるHDRについても一部記載がありました。
その中では、具体的なことは記載されておらず、国際標準規格に準拠するとだけ記載されており、現時点では標準化待ちの状態になっています。とは言え、試験放送の開始時期は明確にはなっていませんが、リオオリンピックの開催時期を考えると、間に合うか怪しいスケジュールのようです。
2018年開始予定の4K/8K実用放送ではHDRをサポート
2018年よりBS右旋、BS左旋、東経110°CS左旋にて、4K/8K実用放送が開始されます。この4K/8K実用放送では、Hybrid Log-Gamma(HLG)方式のHDRがサポートされることが正式に発表されています。
2018年開始予定の4K/8K実用放送についてはこちらをご覧ください。
https://4k8ktv.jp/2016/10/24/4k8k-broadcasting/
まとめ
昨年より話題となってきた次世代高画質技術であるHDR。期待とポテンシャルが大きい分、技術として成熟するのはまだまだ先のようです。徐々に4Kテレビが一般化していく中で、今後の高画質化・差別化に欠かせない技術となりそうです。
技術の普及に欠かせないコンテンツも今年は各VODサービスが対応を発表しており、2016年はソフトとハードがようやく揃うHDR普及元年となる1年になりそうです。
HDR関連記事
https://4k8ktv.jp/2016/01/17/youtube-hdr/
https://4k8ktv.jp/2016/01/23/netflix-hdr/
https://4k8ktv.jp/2016/01/09/ultra-hd-premium/