このサイトを立ち上げようと思った一つに4K/8Kや新技術のHDRに関する情報があまり一般的に知られていないと感じたからです。スタートは「4Kテレビ」と「4K対応テレビ」というキーワードでした。4K/8K試験放送はまだまだ開発・仕様策定されていないことが多く、その内容を知った上で4Kテレビの買い替えをしないと後々、損した!と思ってしまいます。そう感じてしまう方が少しでもすくなればいいなと考えております。
前置きが長くなりましたが、昨年の12月25日、クリスマスに総務省で開催された「4K・8Kロードマップに関するフォローアップ会合(連絡会)」には非常に多くの重要な内容が含まれています。記事自体が長く、しかも「~ない」とか「~出来ません」が多くて少しびっくりされるかもしれませんが、なるべくわかりやすく解説していきたいと思いますのでお付き合い下さい。
いま発売されている4Kテレビでは今年開始の4K/8K試験放送は視聴出来ない!
以前にも当サイトで取り上げえたことがありますが、改めて紹介させて下さい。「今の4Kテレビでは今年開始される4K/8K試験放送を視聴出来ません」
じつはこれ、すでに「JEITA」のHPに2015年7月30日に記載されているのですが、ほとんど報道されていないのが実情です。何故ならこの内容を報道したら、4Kテレビが全く売れなくなってしまうため、恐らく民放はスポンサーへの配慮から見て見ぬふりの状態です。
今年から開始する試験放送は3月末に試験放送を終了する「Channel 4K」とは異なり、BSデジタルで実施されます。しかも既存の衛星を使って実施されることから余計に今のテレビに搭載されているBSデジタルチューナーで視聴可能と勘違いされている方もいるようです。
視聴出来ない理由としては既存のBS放送と試験放送に使用される映像の圧縮方式が異なることが一番の理由です。既存はMPEG2/H.262で行われていますが、4K/8K放送はH.265/HEVCという圧縮方式を採用しています。そのほかにも伝送方式が異なり、現在のBSデジタル放送ではMPEG2-TS方式を採用していますが、試験放送ではMMT(MPEG Media Transport)を採用しています。この方式に対応している機器は来月から発売開始予定の「ケーブル4K」用STBチューナー「TZ-HXT700PW」が民生機で初となるでしょう。
「技術仕様書」公開
今年開始される試験放送関して、今回の「4K・8Kロードマップに関するフォローアップ会合(連絡会)」にてようやく技術仕様書がNexTV-F(次世代放送推進フォーラム)より公開されました。公開された仕様書の概要が上記の資料となります。
前回の「4K・8Kロードマップに関するフォローアップ会合」では試験放送の技術仕様検討内容にHDRについてあまり触れられていませんでしたが、HDRについて明記されているのが大きな違いです。
技術仕様書は「高度広帯域衛星デジタル放送 運用規定 1.0版」となっており、全部で1,137ページにも及ぶ膨大な仕様書です。
この記事が遅くなってしまったのは、この仕様書を読んでから記事を書いた方がよい感じたのですが、さすがに膨大過ぎて2週間以上かかってしまいました。
昨年の11月に開催された日本最大の放送機器展である「InterBEE2015」では、当時はまだ技術仕様書が公開されていなかったため、今年開始される試験放送の試作機は全く展示がありませんでした。
業界関係者に聞いたところ、夏のオリンピックまでに対応チューナーを発売するのはほぼ不可能だそうです。死に物狂いで開発すれば間に合うとのことですが、どれだけ売れるかわからない、しかもチューナー機器にそこまでマンパワーはかけられないとのこと。
仕様書を見る限りでは、既存のBSで実施する4Kの試験放送は既存技術の流用で可能そうですが、課題は「「BS(左旋)/110度CS(左旋)」「8K放送」と「HDR」だと思われます。特に1番目の課題にはついては、あまり聞きなれない言葉かもしれません。どのような課題があるかは順次解説していきます。
BS(左旋)/110度CS(左旋)の課題
4K/8K試験放送は2段階で実施されます。最近、テレビ等でよく言われているのは2016年から開始される「4K・8K試験放送」は1段階目です。
左側を見て頂くと「BS(右旋)」と記載されいます。このBS(右旋)は、現在一般的に視聴されているBS放送にて使用している衛星です。
2段階目は赤枠で囲った「BS(左旋)/110度CS(左旋)」を利用した2017年スタートの試験放送・実用放送ですが、この左旋を利用するにはアンテナの交換等が必要となってきます。詳細は下記にて解説します。
「4K・8K試験放送」はBS17chにて実施
そのため、衛星アンテナ等もそのまま利用することが可能です。今回の試験放送にはBS17chが割り当てられているようです。このBS17chにて最大4K放送(最大3ch)もしくは8K放送(1ch)の時分割放送(時間帯によって放送chが異なる)が予定されています。
上記のように今年開始される試験放送だけに注力すれば恐らく対応チューナーは間に合うのではないかと思いますが、2017年以降の試験放送対応も考えると夏のオリンピックに間に合わせるのは難しそうです。
ちなみにこのBS17chがなぜ空いたのかというと、地上デジタル放送の難視聴対策セーフティーネットにて使用されていましたが、昨年の3月末に終了したため、空chとなりました。
BS(左旋)/110度CS(左旋)の詳細はこれから
実はこの左旋というのがキーワードとなっています。右旋・左旋というのは簡単にいうと、右回り・左回りという意味なのですが、現在の放送はすべて右回りの右旋を利用します。
左旋は利用されていないため、現在のところ受信する方法はありません。受信するためにはまずアンテナの買い替えが必要となります。
NHKアイテックの調査資料「集合住宅における東経110度CSデジタル放送又はBSデジタル放送に関する左旋円偏波の受信可能性に関する調査」によると、4階建以上の集合住宅(一般的にはマンション)に使われている共聴BSアンテナは、改修なし(左旋対応アンテナへの交換)で対応出来る集合住宅は0%とのこと、0%って何?って思わず口に出してしまいました。
しかも約70%弱の集合住宅で小規模な改修が必要、約30%弱の集合住宅で中規模な改修が必要となっています。これでは2017年に新たに4K試験放送・実用放送が始まっても、既存の共聴アンテナで見るとは出来ないようです。視聴するには個人で対応アンテナを設置する必要性が高そうです。
1戸建てに関しても同資料から見ると、対応アンテナの導入だけで対応出来る住宅はなんとわずか6.7%。13.5%の住宅に関してはアンテナ交換とブースター交換等が必要になってくるようです。約40%の住宅の改修なしはCATV事業者による導入対応となっていますが、これも単なる参考値に過ぎないでしょう。基本的には、アンテナ交換がほぼ必須になるようです。
NHKアイテックによると、左旋対応アンテナの世帯普及率は2026~2027年度には現在と同等の普及率になると予想していますが、集合住宅・一戸建ともアンテナ交換だけで対応出来る世帯が限れているため、この予想通りに順調に普及はしないかと思います。
「8K放送」の課題
8K放送最大の課題は、対応する8Kテレビがまだ発売されていないことです。先日のCES2016にてLGが8Kテレビの発表を行っていましたが、こちらも発売時期・価格は明確にはなっていません。
25日の「4K・8Kロードマップに関するフォローアップ会合(連絡会)」でのNHK資料によると、8K放送は上記の構成にて全国のNHK放送局にて公開されるようです。
具体的な機器名は記載されていませんが、大きさと内容からシャープ製8Kモニタ「LV-85001」だと思われます。資料上にある「22.2ch音声用アンプ」という機材は世の中に存在しないので、NHKが開発中の機器になるでしょう。
インターフェース(接続ケーブル)も8K放送対応課題の一つ
8K放送対応の課題として、実はインターフェース(接続ケーブル)があげられます。既存のHDMIでは8K放送の大容量を1本で転送することが出来ません。上記の8Kモニタも「SHV受信装置」と「SHV受信部」は4本のHDMIケーブルにて接続されています。
8K放送対応の接続ケーブルについても、現在は検討中です。最有力候補はsuperMHLと呼ばれる次世代のMHLケーブルです。このケーブルであれば、現在検討されている試験放送レベルは対応することが可能です。「superMHL」についてはこちらをご覧ください。
4K/8K無料放送は録画禁止になるかもしれない
今回、公開された技術仕様書によると、無料放送及び月極め等有料放送が録画可否について「T.B.D(未定)」となっています。これまでの4K試験放送「Channel 4K」や「スカパー!4K」はもちろん録画可能です。
この「T.B.D(未定)」が「運用可」となると、コピー禁止=録画禁止となります。たしかに放送局等は資料率の観点から録画によるタイムシフト視聴ではなく、オンタイムに見てほしいでしょうが、録画が出来ない放送はこれまでありませんでした。
関係者によると、コピー禁止を見据えた「T.B.D(未定)」について在京民放5局すべてが賛同したようです。もし仮に禁止となった場合、大きな混乱が起きる可能性があります。
また、録画出来ないのであれば将来的に4K放送・8K放送対応の録画機器も出てこなくなる可能性があり、視聴はすべてオンタイムでいうレコーダー機器がなかった時代に戻ってしまったような状態になりかねないです。今後の動向に注目です。
HDRの方式はまだ検討中
HDRの方式についてはITU-R(ITU-R Rec.BT.HDR-TV)にて勧告される標準化仕様を前提としていたようですが、肝心のITU-Rにて纏まらなかったため、試験放送のHDR規格についても、仕様決定は3月~4月と先になっています。
議論されている内容は、NHK/BBCが推奨する通称HLGと呼ばれるHybrid Log-Gamma方式(ARIB STD-B67)とPQカーブと呼ばれる方式(SMPTE ST 2084)です。後者にはドルビー研究所案とフィリップス案の二つがあり、2方式、3提案をITUで議論されているようです。
放送だけど、高速なインターネットが必要?
技術仕様書によると、試験放送には次世代のメディアトランスポート方式であるMMT(MPEG Media Transport)が採用されています。このMTTを用いると、放送と通信の融合が可能となるため、上記図のような4K/8K放送を受信しつつ、同等の高画質映像をインターネット経由で受信することも想定されています。イメージとしてはハイブリットキャストみたいな感じでしょう。また、放送と通信の融合については先日、フジテレビが成功した内容が近いかと思われます。こうしたサービスを利用するには(高速)なインターネット回線も必要になりそうです。
まとめ
今年から始まる試験放送について複数の問題点をあげさせて頂きました。一番の問題は現在の4Kテレビには試験放送が視聴出来ないことでしょう。当然我が家の4テレビも対応していないので、対応チューナーが発売されたら購入しようと検討しています。
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